買ってまで読みたくない東大生のための「彼女頭悪」ネタバレゆるレビュー

前の記事は世間一般の人を読者層に仮定したせいで、やたら冗長になったので、こっちはラフな感じで書きまーす。

 

東大生叩きされてたら気になってしまうけど、どうせ不快な思いをするのわかってるのに1890円出してまで読む気にはならないですよね。

そんなあなたのために、ネタバレと、噂話と、自分の正直な感想をこっちにまとめました。

 

 

あらすじ(長いので読み飛ばしてOK)

〇女主人公 美咲

・横浜の青葉区の庶民の家に生まれ、幼いながらに同級生と比較され、やや低い自尊心を持つ。

・並の公立高校に進学し、パドルテニスの大会を通じて他校の彼氏を作るも、清らかなお付き合いをしてる間に他の女に寝取られる。

・偏差値48の女子大の総合生活学部グローバルデザイン科この何の役にも立たなそうな学科名のチョイスめっちゃすきに進学。

・バス停での偶然の出会いにより、横浜教育大学の男子学生グレーパーカと知り合う。グレーパーカに誘われ、野草研究会という名前の平和なインカレに入る。美咲は彼に曖昧な好意を抱いていたものの、いつのまにかグレーパーカは美咲の高校時代の女友達と付き合っていた。モメたり凹んだりする。

 

〇男主人公 つばさ

・渋谷区出身。父は農林省勤め、母はオーガニック志向のおハイソ専業主婦、兄は麻武(武蔵)からの東大法学部だが、つばさに比べて野暮ったいブサイク。本人は横浜教育大附属(学芸大附)→理Ⅰ→工学部。非常にドライな性格。

・高校生時代に、幼馴染の女子である遥を通じて、他校の女子に告白されるも彼自身が他人の恋愛感情をあまり理解できず完全にスルー。この頃、つばさは遥になんとも言えない曖昧な感情を抱いている。

・高校から大学2年までパドルテニス部に所属。理科一類に入学以後、つばさはこちらから働きかけることもなく、パドルテニス部の女子マネなど、多くの女子からアプローチを受けるモテ期に突入し、童貞を卒業する。

・レストランでの遥との再会をきっかけに、つばさは後の加害者たち、和久田、國枝、譲治、エノキに出会う。

・六本木の高級店で、譲治との初対面を果たす。つばさは2学年下の譲治に対しライバル意識のようなものを抱き、つばさと譲治は互いの身の上話をしながら、相手の力量を試すようなマウンティングトークを繰り広げる。

 ・他大の美女いずみと交際することに成功したつばさだったが、和久田と穴兄弟であったことが判明。いずみが東大生という肩書を好むハイスぺ好き女子であるとわかり、嫌悪感を抱く。

・譲治の提案によって『星座研究会』を設立。つばさがこれに参加。

 

そして野外のオクトーバーフェストで美咲とつばさは出会う。

美咲がグレーパーカたちと仲直りして、野草研究会の飲み会に参加すると美咲以外のメンバーは全員カップルになっていた。もはや自分が非モテキャラであることを受け入れ諦めつつある美咲の前につばさが現れ、即日お持ち帰られ&処女喪失することになる。

その後すぐ、つばさには摩耶という美人で家柄も品性も申し分ない彼女ができる。摩耶の姿を思い出して性欲が高まると美咲を呼び出すなど、美咲はセフレに降格する。

そこからは実際の事件の通り、美咲は飲み会に呼ばれ譲治に強制わいせつを受けることになる。

エノキ宅での事件の後、逮捕を受けて慌てる各家庭の様子と、急に女子大の教授が現れて美咲を慰めてくれる様が描かれ、最後には執行猶予中のつばさが

巣鴨の飲み会で、なんで、あの子、あんな風に泣いたのかな」

と一切反省していないサイコパスセリフを吐いて物語は終わる。

 

ひっひっふー。500頁弱の小説を全部ネタバレすると意外に長くなっちゃったごめん。

 

東大周りのヤバい描写

この小説中の東大生は、基本的に貶され続けています。そして、東大に入れば誰もがモテモテのモテなのです。あとなんか、すごくどうでもいいところで東大の描写がおかしい。

・東大で新設のインカレスポーツサークルに入っただけで主人公がモテまくり。東大理Ⅰに入れば女の子は寄ってくるものらしい。

・譲治曰く、男子校出身者であっても、東大に60日もいれば女子の知り合いはワンサカできる。

・東大の名前を出せば皆が有難がる、というくだりで東大襖クラブの名前が登場。

・作中でブサイク(デブでチビでワキガ)だと明言されているつばさの兄でさえ、時々女子からラブレターをもらう。東大パワーの描写の中ではこれが一番すごい。

・東大の女子率は1割。

・東大理Ⅰの試験は他の理系学科とは毛色が違い、スタンダードな問題を速く正確に処理することが求められる。

・北陸出身の和久田(藤田)は数学甲子園で優勝しているため「理Ⅰでは知られた存在」らしい。「理Ⅰでは知られた存在」ってワード、じわじわ来る。

・譲治がやたら金持ちなせいで、星座研究会のメンツは男子だけの時は会員制らしき店などの高級店でガンガン飲んでいる。全くいないとは言えないのがキツいけど、こういう金の使い方させる親はさほどいないんだよなぁ。

・東大女子は自分より賢い相手を選ぶ傾向があるので、医学部健康総合科学科の女は医学部医学科以外とは口をきかない。

・東大生は勉強の事ばかりで人の心はわからない、合理的なので余計な感情を抱かない、という描写が手を変え品を変え10回以上出てくる。ちょっと辟易するレベルで出てくる。

 

 

解釈違いの二次創作同人誌

 

これが、本を通しての感想です。同じ材料を使ってお話を作るのなら、自分は決して、被害者女性をこういう形で持ち上げることができないし、松本の残虐さを人の心への無知のせいにしない。なんなら、河本を主人公に据えたと思います。

作中で何度か、「後に○○は法廷でこう語ることになる~」というバキ形式で裁判や調書の証言が紹介されるんですけど、これ8割がた現実通りだけども、残りの2割ぐらい盛ってある気がするんですよね。

おそらく姫野カオルコは過去の報道や、報道関係の知人からの情報をベースに小説を書いてるんで、もしかしたら僕みたいな傍聴と東大の知人ツテだけではわからない情報があるのかもしれない。でもたぶん、ひとつ前の飲み会で生嶋たちがセックスした後、河本くんが手マンしたという証言は第二回公判にはなかったと思うんだけどな。

 

 河本くんの扱いがメチャクチャひどい

河本くんモチーフのキャラは石井という名前ですが、石井の名字が出てくるのはほんの数回で、地の文の中でも2人称でも「エノキ」と呼ばれています。

これあれですね、当時の彼のツイッターアイコンが枯れナメコだったことに引っ掛けてるんですね。フォロー200人程度の鍵垢だったにも関わらず内容がリークされていて本当に可哀想でした。僕もフォロー80人の垢をリークされたことあります。裏切るのは知人です。

このエノキ、作中屈指のクソキャラです。

主人公のつばさはいけ好かないですがモテていますし、譲治は松見本人よりカッコよく脚色されている気がします。女を差し出させるために譲治がつばさのライバルポジションにならないといけないからです。和久田は正統派モテモテキャラですし、國枝も社交的だと書かれています。

エノキを説明する文章を羅列するとこんな感じです。

・「ほほっ、御遠慮なくエノキと、ほほっ」エノキは妙な笑い方をした。

・容貌にすぐれているとは世辞にも言えず、そのためか女性受けする雰囲気も醸し出せない

・痩せて、へなっと姿勢が悪いエノキが笑うと、歴史ドラマに出てくる公家のようだ。

・体育はまるでだめ、ひょろひょろして、エノキ茸のように、頭部だけが大きい彼の容貌は、およそ異性から好まれるどころではなかった。

・エノキは、「これ、要らない」(注釈:他の男のおこぼれ)になった女子をなだめるという行為を何度も体験する

・その女子学生がエノキのカノジョになることはなかった。

・(なんもしなくても大学名を言や、女のほうがパンツ下ろすのは東大だけなんだよ)エノキは、思っているというより、感じていた。

・(東大に入って、自分のことを「すごいのね」と思ってくれて、つきあってくれるような女の子を見つけて、バイトしてお金ためて、彼女がうれしがるようなものを買ってやって、プロポーズして結婚して、福山に帰って、いつまでもいつまでも「すごいのね」という場所にいてやる)

 

田舎くさい、容姿ダメ、喋りダメ、そのくせ優越感に浸っているというヤバいキャラにされています。

彼がこういうキャラにならざるを得ないのは、執行猶予とはいえ刑をくらったわけですから、それに見合った悪人エピソードを描かないとつりあいがとれなくなるからだろうと思います。実際は、複数人相手の示談が面倒になった被害者女性が処罰を警察にゆだねてしまった経緯があるんですが。

下心が全くないわけではないけれど、河本くんのやったことはおおむね、家を貸しただけです。作中のエノキは女をオトすことに非常に乗り気で、あわよくば、という感がプンプンするので違和感があります。

河本くん、確か第二回公判で、「テニサーで女は頭が悪いという考えが形成され、性的対象ととらえるような価値観があった」みたいな発言をしまして、これを記事で抜かれて叩かれてしまったんですけど、これ彼の性格が悪いとかそういうことではないじゃないですか。

インカレの女は馬鹿、なんて価値観、多くの東大生が潜在的に抱いてる常識みたいなものなんですよね。これが常識だ、という環境は確かに特殊なんで、口に出さないほうがいいとは思いますけど。

 

松本きゅんが地味女に惚れてるのが気に食わねえ

松本きゅんを裁判所で見たとき、その顔の端正さと、一貫してサイコパスな態度に僕はシビれました。なので、僕は松本きゅんのキャラの解釈違いされてるとドチャクソ腹が立ちます。

作中では、つばさが美咲に少しは気があったような描写にされてるんですよねー。

「つばさは美咲のこと、一瞬でも好きだったんじゃないの?どうしてそんなひどいことできるの??」みたいな感じでまくしたてられてますけど、たぶん最初から好きでもなんでもなかったんだと思うんですよね。

性欲の対象にはできる。でも彼女にするつもりなんか微塵もない。クズ男には普遍的な感情だと思いますけれど。

身の回りのサイコさんを見るに、高機能のサイコパスって他人の感情がわからないとかそういうわけではなくて、人間扱いする基準がやたら厳しいんですよ。人と動物の間に引くべき道徳のラインを人と人の間に引いてしまう。

だから、彼らが人間だとみなした相手には普通に友好的に接してますよ。それ以外の人間への態度が鬼畜なだけで。そうですね、自分に惚れた女は豚さんぐらいに見えてるんじゃないですか。愛玩にすることはあっても、必要になれば捌いて肉を食べることを躊躇しないような感情なんだと思います。

 

つばさは美咲同様に、地味女の遥にも切れない縁を感じ続けていることにされてます。

最後の最後のエピローグを、遥とつばさのシーンにしたのは印象的です。

遥は事件後もつばさのことを気にかけて、救済しようとしているかのようです。もしつばさが更生するのなら、その時に隣にいるのは遥のような女性だ、というようなつもりなんでしょうか。それはブスで並の学歴のままでも認められたい、私たちの驕りを反映しているみたいで、どうにも好きになれません。

最近、現実の松本きゅんは普通に周りに女性がいて、なんなら事件前よりモテてる、という凄くいい話を聞きました。

 

そのほか気になる描写とか

誕生日研究会のメンバーの家庭環境とか、現在の状況とかは、軽微なフェイクを入れて小説に反映されてます。僕も、どこまでが確実な話かよくわかんないんですけど。

小説読む際は、「なるほど退学した後松本くんは兄の設立したベンチャー企業に雇ってもらったんだな」とそのまま受け取れば、それで50%ぐらいは合ってるんじゃねえかな、と思います。

 

飲み会シーンで、山手線ゲームで3次方程式の問題出してイッキさせるとか、そういうのはリアリティなくて嫌かなあ。リアリティで面白さは出ねえんだけど。ディオファントスの分数のやつとかも。飲み会の最中に「偏差値45~!」とかも言わねえし。

「信号機の色!」「赤!」「青!」「黄色!」みたいな雑な感じが好みよ。

 

 あと、被害者女性を持ち上げた一方で、飲み会の席にいたもう一人の女性を非難してるのが面白いな、と。

事件の夜、河本宅にはもう一人、フルカワと呼ばれる女性がいました。フルカワ氏は泥酔しイタズラされる被害者を見ながらも、自分は終電で帰ったのですが、これについて姫野カオルコは「おっぱいのサイズを事あるごとに比較されてムカついたから」という説明を付けています。

 

ああ、被害者女性見てみたかったな。傍聴帰りにすれちがったあの人のような気はしてるんだけど。加害者曰く、「いやホントに、普通にかわいくないんですよ」ってことらしいけど。