CASHを潰すのは、悪人でも善人でもない普通の人々

 「性善説に基づいたビジネス」の意味

 

当初、CASHは「性善説に基づいたビジネス」などというフレーズで報道されていた。

 

“性善説”にもとづいたビジネスを--質屋アプリ「CASH」が細かく査定しない理由 - CNET Japan

“質草”の写真を撮れば審査なしで資金提供——STORES.jp創業者の新レンディングサービス「CASH」 | TechCrunch Japan

 

そのためか、CASHが一時停止に追い込まれた理由は、性善説が間違っており、人間の本性が悪だったからだと考える向きがある。

 

 

本当に、CASHを追い込んだのは悪意ある人々なのだろうか。 

 

最初に挙げた記事を読むと、ここで触れられてる悪意とは、申請と全く異なる物を送ったり、何もせずに金を踏み倒すことを指していることがわかる。

つまり、契約をハナから果たす気が無い人々だ。

 

CASHは既存の与信のシステムを用いていない。一般的な信用情報が傷付かないと考えられるため、CASHから借りた金銭を踏み倒しても、クレジットカードの作成や家のローンには困らない。ただ、それ以降CASHを使うのが難しくなるだけのことだ。(注釈:2017/7/4になって、CASHがJICCと組むという噂が流れている。踏み倒しのリスクには注意されたし)

 

全員が踏み倒すのならばこのビジネスモデルは到底成り立たないが、信用情報が傷付くリスクが低いからと言って、この世は全員が金を踏み倒すほど殺伐とした世界ではない。そこまでの悪人は多数派とはとても言えない。

光本氏が性善説、と表現したのはおおむねこのような旨であると思う。

 

 

サービス初日のユーザー層

 

この性善説自体が間違っているわけではないのだが、事態は彼が想定した通りには進まなかった。

 

公開開始からわずか16時間半の間にCASHをダウンロードし、査定まで済ませた、1~2万人の人間が存在するのだが、流行に敏感な彼らが、たかが2万円をわざわざ借りてやりくりしたい層であるとは私には到底思えないのである。

イケダハヤト氏を始め、CASHのサービスを話題にした人々には起業家が多く見られた。彼らは、CASHの新規性(あるいは脱法性)を口々に語り、SNSなどを通じて多くのフォロワーにCASHの存在を知らしめた。

 

おそらく起業家たちのフォロワー層は、インテリ寄りであり、金を稼ぐ意欲のある人間であると思う。そんなフォロワーたちは、CASHを見た瞬間、「うまくやれば儲かる」と即座に感じたことだろう(あるいは、すぐに潰れるから今のうちに金を引き出しておこう、と感じたかもしれない)。

 

彼らはそもそも、明日のお金に困っているわけではないのだから、査定額が不当に高い商品を見つけることに意欲的になった。

 

確かに彼らは、かなり恣意的にシステムの穴を突いている。しかし、金を稼ごうとすること自体はなんら悪いことではない。それを指して、「悪意あるユーザー」と呼ぶならば、光本氏は悪意あるプロバイダーなのだろうか?

 

CASHは質屋アプリか買取アプリか 

しかし、こういった偏ったユーザー層でなくとも、CASHは利益を上げることが難しかったと考えられる。CASHが買取アプリとして利用される限り、基本的には赤字にならざるを得ないのだ。

 

そもそも、お小遣い程度の額を欲しているユーザーがモノを売ることができるアプリとしては、既にメルカリが大きなシェアを得ている。

CASHがメインユーザーとして想定していた、小口の現金を欲している層は、メルカリの使用経験があり、メルカリとの価格を比較しながらCASHを利用することになるだろう。

 

 

CASHがメルカリに比べて優れているのは、現金化のスピードである。

・商品が売れるまで待つ必要がない

・売れた後の輸送・やり取りの時間を待つ必要がない

・外出の必要がない

・毎日振り込みされる

・振り込み時間外であったり、銀行口座がなくともコンビニで受け取ることができる

 

 

このローソンのキャッシュポストを利用している点は中々面白く、銀行口座すら持っていない若い層をユーザーとして取り込むことが可能になる。

 

この現金化のスピードのアドバンテージがあることによって、「メルカリより買取価格が安いけれど、CASHを使ってみよう」というインセンティブが生まれうるのである。

 

 

 

 

CASHが質屋アプリになるか、買取アプリになるかは、査定価格が絶対のかなめになる。分岐点になるのはメルカリでの販売価格だ。

 

まず、CASHの買取価格がメルカリの販売価格(から送料や手数料などを差し引いた収益)より高い商品があれば、CASHは買取アプリとして利用される。

この場合、中古マーケットでその商品を高額で売ることは殆ど不可能であり、赤字は免れない。

 

 

CASHの買取価格がメルカリの販売価格より安くなって初めて、CASHは質屋アプリとしての性質を帯びる。

質流れした商品のマージンで儲けることもできるし、キャンセル料で儲けることもできる。要するに、一般的な質屋とようやく同じ土俵に立てることになる。

 

 

貸金業と古物商の性質はグラデーションになっており、買取価格が安ければ貸金業に、高ければ古物商としての性質が強くなる。

 

以上、査定額とアプリとしての性質をまとめると図のようになる。

 

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従業員わずか4人のCASHが質屋をやっていきたいのであれば、買取価格の大幅な値下を行い、貸金業としての性質を強めることが不可欠になる。もちろん、買取価格を下げれば下げるほど、ユーザー数は減るが、他の質屋に比べて利便性が高いことで勝負していけるだろう。

 

イノベーションすらと呼ばれたアプリは結局、査定と在庫リスクという昔からの課題に取り組まざるを得ないのである。

 

 

 

 

質流れする商品

 

CASHを「らくちん買い取りアプリ」だと思ってる君のために、おっさんたちがこんなにも騒いでいる理由をお教えしよう | hajipion.com

 

 

この記事では「らくちん買い取りサービス」の皮をかぶった質屋アプリ、との説明がなされているが、皮肉なことに、ユルユル査定のせいでCASHは本当に「らくちん買い取りサービス」になってしまった。

 

私自身も、H&Mの使い古したTシャツを出品したところ、手数料を差し引いて750円の現金を得ることができた。このTシャツ1枚のためにヤマト運輸が家まで集荷にやってきた。近距離では集荷にかかる運賃は756円で、これはすべてCASH側が負担してくれる。

現金だけでなく、送料まで負担してくれるのであれば、買取アプリとして言うことはない。

 

悪意ある人々によって貸し倒れが起こるのではない。当初の想定ユーザー層が買取アプリとして利用するだけで、CASHは損失を被るのである。

 

 

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 上の画像は光本氏が自ら公開したもので、この数字を元に

 

 

と収益を計算している人々がいるが、この計算は適切でない。

 

 

まず、7500個という数は査定中止当時の集荷依頼数に過ぎず、実際の数字はもっと大きくなる可能性がある。

そして何より、質流れになった商品分は、赤字なのである。

 

 

査定に一切の手間をかけないことによってコストを削減するというアイデアは画期的ではあったものの、 それによって多くの、市場価値以上に高く買取されるアイテムが生まれてしまった。

 

有名なのは、次のブログのヘアゴムである。

amothic.hatenablog.jp

 

1本の販売額が約20円のヘアゴムを査定に出したところ、1000円の値段が付いたという。

CASHの査定ページにはブランドカテゴリになぜかH&Mがちゃんと入っており、アイテムカテゴリにはなぜかヘアゴムもカテゴライズされているのである。

そもそもH&Mの商品は、中古市場ではほとんど値段が付かない。しかし、CASHではすべてのアイテムが1000円の値が付いてしまった。

 

 

グッチやエルメスなど高級ブランドでも、同様の現象は発生した。

商品の状態がどれだけ悪くても値段が下がらない使用だったため、ヨレヨレの財布でも1~2万の値が付いた。

また、CASHは同じアイテムカテゴリならば全て同じ値段がついてしまうのだが、当然同じブランドでも、時計なら時計でいくつかの価格帯を用意している。安価なアイテムを出品すれば新品を転売するだけで儲かってしまうというブランドも存在していた。

 

 

こうして商品の多くは、中古市場の本来の価値よりも高く買い取られたと考えられる。それこそが、初日から爆発的なアクティブユーザーを獲得した理由だとも言えよう。

 

 

こういった商品を査定に出したユーザーを悪質だ、と断じるのには抵抗がある。

 

アゴムの例は悪質だと言えないこともなかろうが、新品での販売価格と中古の買取相場が大幅に異なっている商品は山のようにある。

例えば、定価1500円もする本をブックオフに持っていったら買取価格が10円だった、なんてのはよくある話だ。そこに、「その本を1000円で買い取りますよ」という業者が現れたらどうだろう。

高額で買い取ってくれる業者がいるならば、その業者を利用するのはいたってまっとうな消費者心理ではないだろうか。そういったユーザーは、虚偽の記載をしたわけでも、踏み倒そうとしたわけでもない。

 

 「メルカリより高く売れるから」という理由で、CASHを使う人々は、会社を赤字にして楽しみたいわけではない。自分が得をすれば相手が赤字になることすら考え及んでいないのかもしれない。

より安いスーパーを探して行く主婦と同じ、「普通の人々」なのである。

 

 

 質流れする商品が多ければ多いほど、商品の価値が低いほど、CASH側は現金を回収することが難しくなっていく。一体、初日の取引でCASHはいくらの損失を出すことになるのだろうか。

 

 

おわりに

 

最後になるが、CASH問題を俯瞰するにあたっては下の記事が一番わかりやすいと思う。

toyokeizai.net

 

ここではあえて触れなかった法律上の問題についてもわかりやすく述べられているので、気になる人にはぜひ読んでほしい。

 

7/4現在、査定の再開に向けて調整中ということだが、さすがに査定基準は厳しくしてくるだろう。

査定額を大幅に下げてようやく、「普通の人々」ですらない人々が、当初想定された通りの使い方をするようになる。貧困ゆえに高利で金を借り、貧困から抜け出せなくなってしまう層のことだ。

ぜひとも、CASHには頑張ってほしいものである。

 

既に査定を行った人は、ぜひ、今のうちにお金を引き出しておこう。

そして、商品の集荷は早めに行っておこう。

いつ送料が追加されるか、いつ引き出しすらできなくなるのか、私には全く想像がつかない。